日本に生きるイスラーム ―過去・現在・未来―
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31イスラームとはマッカの方角を知り、礼拝の時間を確定する必要性もあって、天文学も発達した。今日でも、肉眼で見ることのできる天の星は、4分の3がアラビア語起源の名前を持っている(残りはギリシア語、ラテン語)。私たちが誰でも知っている星で言えば、七夕の彦星、織姫、すなわちアルタイル、ヴェガもそれぞれ、アラビア語の「アッターイル=飛ぶ(ワシ)」「ワーキウ=降下する(ワシ)」が語源である。この時代のイスラーム文明は西洋に大きな影響を与えた。科学技術が特に発展した分野として、天文学(理論天文学、実地天文学)、数学、光学、工学、医学、生命科学(植物学、薬理学)などがある。さらに、地理学や化学なども重要な成果を上げた。イスラーム圏の天文学、地理学、そして中国から輸入して改良した羅針盤が、西欧の「大航海時代」を生み出したことは、よく知られている。今日のイスラーム17世紀あたりを境目として、イスラーム文明よりも、西洋の近代文明が科学技術でまさるようになり、特に19世紀以降は産業革命と軍事技術の力で、列強がイスラーム圏のほとんどを植民地化するようになった。イスラーム文明を、物質文明と精神文明の二つの側面に分けるならば、前者は明らかに衰退の兆候を見せ始めたのである。しかし、精神文明としてのイスラームは、西洋列強の強勢にもかかわらず、ムスリムたちの心と生活の支えであり続けた。世界中で少なからぬ宗教が、近代科学の発展の前に「時代遅れ」と思われるようになったことを考えると、近現代にもイスラームが大きな力を持ち続けていることは驚きに値する。聖

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