日本に生きるイスラーム ―過去・現在・未来―
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51世界に広がるイスラーム建築 ―普遍性と多様性―半島では、降雨量が少ないので、屋根は平らに造る。しかし熱帯あるいは温帯雨林の湿潤気候の土地では、雨を凌ぐために屋根を傾斜させる[写真8]。屋根を傾斜させるために、柱の配置に工夫をし、小屋組みをすることによって、西アジアの造形とは全く異なる建築が造られる。北方系は、ロシアのウクライナ地方にある。やはり傾斜屋根を戴くモスクで、19世紀には新しん疆きょうにも同様な様式がロシア人ムスリムとともに移入する[写真9]。インド洋西海域のスワヒリ地方には珊さん瑚ご石建築の系譜が確認できる。比較的分厚い壁で囲み、奥行の長い平面とし、中庭を持たない[写真10]。また、サハラ南部の西アフリカには泥造建築の系譜がある[写真11]。こうした土地に、先述した普遍性をもったイスラーム様式が届かなかったわけではない。各地で、西アジアや北アフリカからの建築文化の移入を語る事象を確認できるが、持続的ではなく、土着の様式へと回帰してしまう。彼らはなぜローカルな道筋を選択したのだろうか。ひとつには、中緯度乾燥地域とはあまりにも異なる生態系とそこから生じる建築材料、加えて濃厚な基層建築文化の存在が大きいのであろう。宗教はイスラームながら、異なる背景を誇張するかのように、自らの個性を主張する。その陰には、多様性を肯定するイスラームの思想があるのかもしれない。

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