日本に生きるイスラーム ―過去・現在・未来―
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55世界に広がるイスラーム建築 ―普遍性と多様性―他者からの枠組み―イスラーム建築の成立今まで用いてきたイスラーム建築という括くくりは、イスラーム教徒の発案ではなく、19世紀西欧が構想した「サラセン建築」に由来する。西欧では、17世紀頃から、当時のムスリム三大帝国―オスマン朝、サファヴィー朝、ムガル朝―の首都を飾る壮麗な建築が銅版画で紹介されはじめ、18世紀後半以来、スペインやシシリーのムーア建築を含め、より詳細な建築図版が出版されるようになった。19世紀になると異国趣味の建築が持て囃はやされ、各地から紹介された事例の要素を混入、折衷、さらにはゴシック風のテイストも加味し、今までにない「イスラーム風建築」が西欧で造られた。そして、同時に西欧が植民地としたイスラームの国々にも、イスラーム各地の細部、あるいは西洋建築を折衷した建築を建設する[写真12]。彼らは、現地に残る歴史的建築をも併せて、これらイスラーム風の建築をサラセン建築、あるいはサラセン様式と呼んだ。19世紀には、自由、平等、科学、進歩で代表される西欧に対し、狂信、独裁、野蛮、専制のイスラームという二項対立的な図式が導かれたという。そして、この時代に初めて「イスラーム世界」という概念が成立したと考えられる。イスラーム建築も同様で、このような経緯から先述したように、モスクや宗教建築以外のイスラーム教徒の関係する建築すべてをイスラーム建築と呼ぶようになったのである。このような状況下で、19世紀から20世紀前半にかけて、モスク建築はどのような動向をとったのだろう。多くの国々に、当時の壮麗なモスクが残っているが、その多くは、各地の前時代の様式に沿ったもので、特別な西欧化が確認できるわけではない。

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