サウジアラビアと日本 ―その素顔と絆―
102/222

98ばれた。父親が主として食卓に料理を並べ、その周りを家族全員が囲んだ。食事の準備が進められる間に、父親は子どもたちとその日のことを話し合うのだが、仕事上の秘密は決して漏らさなかった。父親はときおり「うん」と声をだして耳を傾けていた。そして次の料理が運ばれる、というように時間が過ぎていった。おおよそ3時間のことであった。家族全員が通勤電車の混雑について愚痴を言っていた。東京の地下鉄の混雑は凄まじく、数分の停車時間に客が車両に出入りする際には、駅員たちが乗客を車両に押し入れなければならないほどだった。乗客の多くは1時間ほど乗車しており、その混雑に悲鳴をあげていた。このような異常な混雑にもかかわらず、地下鉄の車両の中は静かで、席に座った者は新聞や本を読み、もしくは両目を閉じて休息をとっていた。ある時は、細木一家の息子の成人を祝う日であった。家族の食事が終わり、父親は祝福を受けた息子を連れて外出し、友人たちと飲み明かすこととなった。その次に会ったときに父親に、その晩のことをたずねたのだが、彼らは居酒屋をはしごして、飲み明かしたらしい。いずれにせよ、父親は息子に対して今日から大人としてふるまうよう教えていた。飲みたいと思うものは何でも飲むことができるし、酒にはいろいろな種類がある。そして居酒屋はいくらでもある、と説明した。しかし、息子が歩けなくなって倒れこみ、嘔吐をすると、父親は彼を近くの居酒屋のトイレに運び込み、顔や服を洗い、意識をとりもどすよう介抱したらしい。彼は大人としての最初のレッスンを受けたのであった。それは、欲望のおもむくままに飲みすぎて、自分を見失い、他人の前で恥をかいてはならないというものであった。父親は息子に対し、もしお前がひとりで飲みつぶれていたらどうなっていたか想像しなさい、歩けなくなり

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です